GWシャッフル ゴールデン ウィーク シャッフル

 4月もあと少しで終わろうとしていた。
 クラス替えがすんでから3週間近く経つと、もう随分と教室にも落ち着きが出てきて、騒がしさにもよそよそしさがなくなってくる。
 圭介は相変わらず、昨年度も同じクラスだった潤一郎、北斗の悪友二人とグループを形成するような感じになっていた。
「な、おまえらゴールデンウィークはどうすんや?」
 昼休みの教室で、潤一郎が圭介と北斗にそう聞いてくる。
「ゴールデンウィーク?」
 圭介は少し渋い顔になる。北斗も困ったような顔だ。
「なんや? なんか予定あんのか?」
 こちらも少し渋い顔になって潤一郎がそう言う。
「俺はバイト三昧の予定や」
「俺も、部活があるからなあ…。定期戦近いし」
 圭介は苦い顔のままそう言い、北斗はそう言って苦笑いした。
 定期戦というのは、隣市の県立戎宮高校と毎年5月に行っている運動部の対抗戦のことだ。毎年僅差の戦いが続いている上に、全校生徒の応援があるため、運動部の選手は自然に気合いが入るものらしい。陸上部所属の北斗も、例外ではなかった。
「なんや、おまえら! 青春真っただ中で、なんて寂しいゴールデンウィークを送っとんのや! 青春と言えば、恋! 恋と言えば女やないか! 彼女もおらへんおまえらこそ、こういう連休は張り切るべきなんや!」
 潤一郎はそう演説ぶる。半ば本気だ。
「で、具体的になにがしたいんや?」
 こういう時の潤一郎は、必ずなにか企んでいる。それを見通して圭介は鬱陶しそうにそう聞いた。
「ここに、毎日新聞の、ポートピアランドご招待券が6枚ある。男は俺と圭介と北斗の3人で決まりや。あと3人は女を誘いたいが、どうや?」
 潤一郎は学生服のポケットからチケットを取り出して机に置いた。そうして、二人を交互に見る。
「女? おまえ1人なら、選り取り見取りやろうが。その6枚の券で3回行けるやろ? そうしろよ」
 圭介はそう言ってため息をつく。潤一郎なりのお遊びでもありお節介であるのが見え見えだった。
「わからんやつやなあ。君たちに出逢いを提供しようと言っとるんだよ」
 潤一郎はそう圭介に力説する。
「まあ、それなら、乗ってもええけどな」
 その潤一郎に、北斗が先に反応した。
「そら見ろ! 佐竹は行くと言ってきたぞ! おまえもつきあえ!」
「なんでそうなるんや!」
 意気込む潤一郎に、圭介は苦笑いしながらそう声を上げた。
「なんだか、面白そうな話しとおな」
 面と向かっていた圭介と潤一郎がその声に振り向くと、晶が楽しそうに笑って立っていた。その斜め横には、おまけのように陽も顔をのぞかせている。
「おう、高橋! 興味あるか?」
 潤一郎がすっと晶の顔に視線を移す。
「ああ。何なら、あたしと陽と、参加したろうか?」
「マジか!? そりゃあ、助かるわ!」
 晶の提案に、潤一郎が思わず顔をほころばせる。
「もちろん、全部奢りなんやろ?」
 極上の笑みで、晶は男3人にそう聞いてくる。
「晶ちゃん…」
 陽は思わず晶の袖を引っ張ってしまう。
「そら、高遠! ここまで言われて、引ける訳ねえやろ!!」
「なんで俺まで既に参加することになってんねや!!」
 潤一郎の言葉に、圭介はそう喚き返す。
「添え膳食わぬは男の恥と言うやろうが!」
「この二人のどこが添え膳や!」
 そんな二人のやりとりを見ていて、晶が大きな声で笑い出した。
「ほんっまに武藤たち見てると飽きへんな。下手な芸人より面白いわ」
「晶ちゃん、悪いよ、そんな言い方したら…」
 目の端に浮かんだ笑い涙を拭いている晶に、陽が思わずそう言ってしまう。
「ええ、ええ。そうやろ? 武藤、高遠?」
 そう言う陽を制して、晶はそう圭介たちに笑顔を向けた。
「おう! もちろんや! な、高遠」
「俺はおまえと漫才コンビを組んだ覚えはねえ!!」
 調子のいい潤一郎に、圭介はそう喚き返した。
「それはいいとして、あと1人足りへんな」
 それまでの二人のやりとりをただ苦笑いして傍観していた北斗が、いきなりそう口を挟んでくる。
「そうやな。あと1人、足りへんな」
 潤一郎はそう言いながら、ちらっと圭介の方を見る。
「なんや?」
 その視線に気づいて、圭介は少しきつめの視線を潤一郎に返す。
「高橋たち、他に女の子のアテあるか?」
 視線をはずした潤一郎が、そう晶に聞いた。
「アテなあ…? 声掛けてみんとわからんけど、アテにされるとちょっと困るな」
 晶はそう言って苦笑いする。
 二人とも、クラスではどちらかというと浮いている存在だからだ。
 晶は半分芸能人という特殊な身分のせいで、陽は大人しすぎる性格のせいで。
 その言葉を受けて、潤一郎はにたあっと圭介に笑い返した。
「おまえんとこの真由子ちゃん連れてこい!」
「はあっ!?」
 潤一郎の言葉に、圭介は自分でも素っ頓狂な声を上げたと思った。
「なんで、真由子なんや!?」
「簡単や。真由子ちゃんはおまえの従妹で、なおかつ佐竹の後輩や。これほど調達が簡単で、なおかつ人見知りせえへん女の子ないやろ?」
 怪訝な顔をする圭介に、潤一郎は自信たっぷりでそう答えた。
「そう言うことやから、もう1人はこいつの従妹を連れてくるわ。高橋も、葛城も、この日は無理って日はないか?」
「ちょっと待て、俺の意見は聞く気ないんか」
 話を進める潤一郎に圭介は声を掛けるが、潤一郎はわかっていて完全無視だ。
「陽、なんか都合の悪い日あるか?」
 晶の問いに、陽は小さく首を振る。
「あたしは5月の3連休なら大丈夫やから、そのどっかに突っ込んでくれたらええわ」
「よし。じゃあ、あとは陸上部の練習と重ならへん日ならオッケーやな。よし、それで調整しよう」
「だから、俺の予定は」
 晶の回答にひとりごちて頷く潤一郎に、圭介はそう声を掛けるが、まだ潤一郎は無視を続ける。
「おいっ、武藤!!」
「おまえのバイトは、あってないようなもんやろ? マスターには俺からも言っといてやるよ」
 声を上げる圭介に、潤一郎はそう言ってにたあっと笑った。

「勝手に決めてもうて悪かったな」
 授業も無事に終わり、同じ町内へ向かう帰り道、晶は陽を振り返ってそう言う。
「ううん。全然いいよ」
 陽はそう言って晶に笑いかける。
「でもよかったな、これで高遠といっぱい喋れんな」
「晶ちゃん!」
 にっと笑う晶に、思わず陽は声を上げてしまう。
「いいんや、これで。この3週間見てたら、陽の行動にはイライラしとったからな」
 晶はそう言ってまた笑う。
「せっかく席が隣やのに、全く声も掛けんとじーっと見とおだけやもんな。ホンマに見とおだけでええのか?」
 晶の問いかけに、陽は首を小さく振る。
「やろ? 仲良くなりたいやろ?」
「うん…」
「だったら、チャンスや。あたしは武藤か佐竹の相手をするし、高遠の従妹だって、まさか高遠の相手はせんやろから」
 晶はそう言うと、陽に優しく笑いかけ、陽の頭を軽く撫でる。
「頑張ろうぜ、陽。想いは見てるだけやったら届かんし、見てるだけやったらつまらん」
「うん…。ありがと、晶ちゃん…」
 陽は照れて頬を少し染めながら、お節介で優しい親友に感謝していた。

「真由子〜。ちょっとええか?」
 バイトが終わって帰宅した深夜、圭介は真由子の部屋のドアをノックした。
「なに?」
 真由子がドアを開けて顔をのぞかせる。
「5月4日、暇か?」
「5月4日? 陸上部の練習はないから暇やよ。でも、どうしたん?」
 あまりにも単刀直入な圭介の問いに、真由子は怪訝な顔で聞いてきた。
「いやな、俺の連れがみんなでポートピアに行こう言うてんねん。でも、人数足りんでな。暇やったらどうかと思ってな」
「行く行く行く!! 絶対行く!!」
 圭介の言葉に、真由子は目を輝かせてすかさず応えた。
「雨が降っても行く! 絶対行く!!」
「いや、雨が降ったらたぶん別の場所になると思うぞ」
 あまりの真由子のはしゃぎぶりに、圭介は困ったように笑いながらそう言うしかない。
「えーっ! ババリアンマウンテンーっ!!」
「まだ、雨だって決まった訳やないやろう? 落ち着け」
 圭介はそう言うと、真由子の頭を軽くはたく。
「おにーちゃん、痛いーっ!!」
 真由子は立ち去ろうとする圭介にそう抗議するが、もう圭介は自分の部屋のドアノブに手を掛けていた。
「来るメンバーの中には、おまえんとこの先輩の佐竹もおるぞ。しっかり相手してやってくれよ」
 圭介はそう言うと、「おやすみ」と笑って部屋に戻っていった。
「…佐竹先輩?」
 真由子はそう言うと、少し首を傾げる。そして、ぽんっと手を打った。
「あ〜、あの豹変する熱血先輩や」
 真由子はようやく北斗の顔を思い出したようだ。
「だったら面白いかなあ? とにかく、遊園地やもんね」
 真由子はそう言うと、ぐっと握り拳を作る。
 そして、ちらっと圭介の部屋のドアを見た。
「…おやすみ、おにーちゃん」
 少し自嘲気味に笑うと、真由子はそう呟いて部屋へ戻った。


                                         

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